雪の上にテントを張るのは、芝生や砂利の上とはまったく別の技術です。通常のペグは柔らかい雪からそのまま抜け、足元は1時間前の新雪が次の瞬間には凍った面に変わり、夏ならフライがはためく程度の風が、雪の上では一晩でテントを埋める吹きだまりを作ります。この記事では、テントの場所選び、崩れない整地の作り方、雪上でのアンカーの取り方、風と吹き込む雪への対処、そして凍りついたアンカーの撤収までを、現場の手順として解説します。
最初に前提を確認しておきます。日本の冬のテント泊は、基本的に冬季営業しているキャンプ場か、運営者・スキー場・自治体がキャンプ用に開放した雪原サイトで行うものです。雪の積もった路肩や公園に自由に張ることは一般に認められておらず、キャンプ場内でも大きな穴や雪壁を掘ることが制限される場合があります。どこに張ってよいか、どこまで掘ってよいかはスタッフに確認してください。営業中のキャンプ場の探し方は日本の冬キャンプガイド、冬に閉まるキャンプ場が多い理由は日本のキャンプ場が冬に閉まる理由で解説しています。
場所選び:上・下・風上を確認する
管理されたキャンプ場でも、具体的な設営位置は自分で選ぶことが多く、雪の上ではその判断がどんな装備よりも重要です。三つの方向を順に確認します。
上を見る。 斜面の上方を確認します。雪崩はおおむね30〜45度の開けた斜面で発生しやすく、斜面の下端よりはるか先まで流れてくるため、平らな場所でも走路の範囲内にあることがあります。森の中に木のない帯が通っている、枝が片側にしかない木や折れた木がある、沢の出口にデブリが溜まっている、といった場所は避けます。尾根や土手の上に張り出した雪庇(せっぴ)の下、建物の屋根や軒下、雪を大量に載せた大木の下も避けてください。屋根からの落雪はテントを潰すほどの重さがあります。上からの危険がないか判断できない場合は、別の場所を選ぶか運営者に聞きましょう。
下を見る。 雪は下にあるものを隠します。針葉樹の幹の周りにできるくぼみ(ツリーホール)は雪が緩く深いことがあり、人やテントの角が落ち込みます。沢、池、湖の岸からは十分に離れてください。スノーブリッジや薄い氷が抜けることがあり、雪に埋もれた側溝も同様です。春先のような気温の日は、雪解け水が床下に溜まるくぼ地を避けます。
風上を見る。 予報と雪面の両方から卓越風の向きを読みます。風紋、削られたような吹きだまり、木の片側だけに張り付いた雪は風の来る方向を示しています。木立や小さな高まりの陰は役に立ちますが、深いくぼ地には冷気と吹きだまりが溜まります。風は避けつつ、大きな吹きだまりの真裏ではない場所が、たいていは最良の妥協点です。当夜の風速と降雪量は気象庁で確認し、地形による予報の読み替えは設営前に日本の天気を読むを参考にしてください。
崩れない整地を作る
柔らかい雪の上にそのまま張ると、動くたびに床が不均一に沈み、背中の下にこぶができ、足跡の形に床がたわみます。解決策は、先に踏み固めてから雪が締まるのを待つことです。
- テントの床面より各辺50cmほど広い範囲を決めます。周囲を歩けて、アンカーも固い雪に打てる広さです。
- 範囲全体を踏み固めます。スノーシューやスキーは体重が分散されるので、靴だけよりずっと早く終わります。靴だけの場合は小刻みに重ねて踏み、さらに直交方向にもう一度踏みます。深いパウダーでは低い所に雪を足しながら何度も繰り返します。
- 平らにならします。スコップの背や靴で表面をならし、くぼみを埋めます。頭側が高くなるわずかな傾斜は許容範囲ですが、平らな方が快適です。
- 締まるのを待ちます。乱された雪は時間とともに粒同士が結合して固くなります(焼結と呼ばれる現象です)。寒く乾いた条件では、目に見えて固くなるまでおおむね20〜30分以上かかり、0℃前後の湿った雪では締まり方が異なり、さらに時間がかかることがあります。待つ間に防寒着を着る、荷を解く、アンカー用の溝を掘るなどを進めましょう。
- 確認します。靴でまだ深く沈むなら、もう一度踏んで待ちます。体重をかけても深い跡が残らなければ、テントの床も支えられます。
日が暮れかけていても、待つ工程は省かないでください。急いだ整地は、夜中にはでこぼこの寝床と緩んだアンカーになります。出入口の前は踏み固めた雪の上に出られる位置にし、トイレの方向へ小道も踏んでおくと、夜にパウダーを漕がずに済みます。
アンカー:スノーペグ、埋設アンカー、T字溝
細い通常のペグは雪の中ではほとんど効きません。実用的な選択肢は三つあり、組み合わせて使うことも多いです。
スノーペグ
断面がU字・V字・T字の幅広アルミペグで、長さ25〜30cm以上のものが一般的です。テントから離れる方向に傾けて押し込むか踏み込み、周りの雪を踏み固めて締まらせます。固い雪や凍った雪にはよく効きますが、深い新雪では抜けることがあり、その場合は横向きに埋める埋設アンカーとして使います。
埋設アンカー(デッドマン)
引っ張る方向に対して横向きに埋めた物体で、張り綱を動かすには雪の塊ごと引きずる必要があるため効きます。よく使うのは次のものです。
- スタッフサックや専用のスノーアンカーバッグに雪を詰め、張り綱に結んで埋める。軽く、非常に柔らかい雪でも使えます。
- スノーペグや通常のペグを横向きに埋める。張り綱は中央に結びます。
- 枝や枯れ枝の束。現地で拾うことが認められている場合のみ。生木の枝は切らないでください。
T字溝(T-slot)の作り方
- 張り綱が引く方向に対して直角に、深さ20〜30cmほどの細い溝を、アンカーより少し長めに掘ります。
- 溝からテント側へ向けて張り綱を通す細い切り込みを入れ、綱が縁を乗り越えずにまっすぐ引けるようにします。
- 綱をアンカーの中央に結び、溝に寝かせて雪で埋め戻します。
- 埋め戻した雪をしっかり踏み固め、締まってから本格的に張ります。
物の大きさより深さが効きます。深く埋めるほど多くの雪を引きずることになるからです。非常に柔らかい雪では、より深く埋め、より強く踏みます。張り綱は固結びではなく、引き解け結びや小さな自在付きのループで留めておくと、翌朝外せる可能性が残ります。
すべて張り綱を張り、雪壁を作る
雪の上では、テントのガイポイントはすべて使います。張り綱は荷重を多くのアンカーに分散させ、フライがインナーに当たってばたつくのを防ぎ、雪を落とす形状を保ちます。全体を均等に張ったら1時間後にもう一度見回ってください。雪が沈むとアンカーはずれ、ナイロンのフライは冷えると緩みます。
テントの低く細い側を風上に向けます。出入口を真正面の風上にすると雪が入り、開けた瞬間の突風で破れることがあります。真後ろの風下にすると、風下にできる吹きだまりに埋もれることがあります。風に対して斜めの位置の出入口が、最も雪かきしやすいことが多いです。スノースカートがあれば、フライの下に風が入らないよう固めた雪で押さえますが、ベンチレーターはふさがないでください。
吹きさらしのサイトでは、風上側の雪壁で風圧を大きく減らせます。固い雪や締まった雪をスコップやスノーソーでブロックに切り出し、互い違いに積むか、雪を盛って踏み固めた土手にします。注意点は二つ。雪はどんな壁でも風下側に積もるので、テントに密着させず間を空けること。そしてテントより高い壁を近くに作ると、かえってテントを早く埋める吹きだまりを生むことがあることです。条件に必要な分だけ作り、掘ることに関する場内ルールに従ってください。
吹き込む雪、換気、結露
スピンドリフトは、風で舞う細かな雪がファスナーやベンチレーター、フライの裾の隙間から入り込むものです。暖かい装備に触れると溶けて濡らします。対策は次の通りです。
- フライは閉め、風上側の前室ドアは閉じておく。
- 前室の荷物は口を閉じた袋に入れ、テントに入る前に服の雪を払う。
- 小さなブラシやスポンジを中に置き、溶ける前に掃き出す。
悪天候でも換気口は開けておきます。呼気の水分はフライ内側で霜になり、テントが揺れると降ってきます。さらに重要なのは、換気口を閉じるとあらゆる燃焼の危険が高まることです。降雪中は高い位置のベンチレーターが埋まったり凍ったりしていないか、こまめに確認します。朝はインナーの霜が溶ける前に払い落としましょう。
夜間の降雪:時間を決めて除雪する
大雪のときは、テントの上と周りに積もる雪そのものが危険です。フライに載った重みはポールを曲げたり折ったりし、壁際に積もった雪は換気を妨げ、埋もれたテントからは出にくくなります。有効なルールは次の通りです。
- 寝る前にスコップをテント内か前室に入れておく。外に置くと埋もれます。
- 大雪予報なら2〜3時間ごとにアラームをかけて確認し、降り方が強ければさらに頻繁に。
- 中からはフライを軽く叩いて雪を滑り落とす。外からはフライを切らないよう注意しながら、雪を壁から遠ざける方向へかき出す。
- ベンチレーターと出入口の周りを最優先し、次に吹きだまりができる風上側を除雪する。
除雪が降雪に追いつかない、ポールが変形してきた、という場合は、必需品をまとめて場内の避難棟や車など避難できる場所があれば移動するのが安全な判断であることが多いです。体力と視界が残っているうちに決めてください。
前室での調理:短く、慎重に
吹雪のときは前室で調理したくなりますが、ストーブには二つの重大な危険があります。ナイロンのフライはすぐに溶けて燃えるという火災の危険と、雪で密閉されたテントに一酸化炭素が溜まる危険です。前室で調理するなら、ドアを全開にし、生地から離して安定した台に置き、目を離さず、終わったらすぐに消火してください。寝室部分や就寝中にストーブ、ヒーター、炭を使うことは絶対に避けます。換気だけでは安全対策にならない理由は一酸化炭素中毒と冬のテント暖房で解説しています。
凍ったアンカーの撤収
朝には埋設アンカーやペグが固く凍りついていることがよくあります。前提として計画しておきましょう。
- 張り綱を力任せに引かない。綱が切れるか、フライのガイポイントがちぎれます。
- スコップで横から周りを切るようにしてアンカーを掘り出す。スノーペグは横を掘って横方向にこじると抜けることが多いです。
- 掘る前に引き解け結びを解き、綱を自由にしておく。
- フライとインナーの霜と雪を振り落としてから収納し、乾いた寝具とは分ける。帰宅後か次の宿泊地で完全に乾かす。
- 溝を埋め戻して雪面をならし、ペグ、袋、ロープをすべて回収し、埋めた枝も持ち帰る。
夏より早めに撤収を始めてください。かじかんだ指ではすべてに時間がかかり、凍ったファスナーやバックルは手で温めないと動かないこともあります。
まとめ
- 設営が認められた場所でのみ張り、踏み固める前に上・下・風上を確認する。
- テントより広い整地を踏み固め、締まってから張る。
- スノーペグか埋設アンカーをT字溝で使い、ガイポイントはすべて張る。
- ベンチレーターと出入口をふさがず、大雪時は時間を決めて除雪し、スコップはテント内に。
- 寝る場所で火を使わない。凍ったアンカーは引かずに掘って外す。
冬季営業のサイトはマップで探し、運営者に直接確認してください。出発前に、積雪・風・営業状況の最新情報を運営者と気象庁で必ず確認しましょう。
