冬のキャンプの台所は、決まったパターンでつまずきます。10月には2分で湯が沸いたガスバーナーが、1月の明け方には弱々しい炎しか出ない。ポリタンクの水が丸ごと凍っている。鍋はおいしくても、凍った炊事場での片付けはつらく、ゴミは持ち帰りと言われる。どれも仕組みを理解すれば対処できる問題です。この記事では、日本での冬キャンプや車中泊における燃料、バーナー、食材、水、片付け、ゴミのルールを整理し、最後に持ち物チェックリストをまとめます。
寒さとガス缶
なぜ寒さに弱いのか
キャンプ用ガスは缶の中で液体として加圧されており、気化してバーナーに送られます。気化のしやすさは温度で決まり、ガスの種類ごとに常圧での沸点が異なります。
- ノルマルブタン:約-0.5℃
- イソブタン:約-12℃
- プロパン:約-42℃
沸点付近や沸点以下では缶の圧力がほとんど生まれず、炎が小さくなったり消えたりします。問題はその温度に達する前から始まります。バーナーがガスを吸い出すと、中の液体は気化熱で自ら冷えるため、5℃で使い始めた缶でも長時間の湯沸かしで気温よりかなり低くなります。缶の表面に霜がつくのがそのサインです。
日本でよく見る缶は2種類です。
- CB缶(カセットボンベ):コンビニ、スーパー、100円ショップで売られる細長い缶で、卓上カセットコンロ用です。標準品は主にノルマルブタンで安く手に入りやすい反面、0℃前後では力が落ちます。各メーカーからイソブタンやプロパンを配合した寒冷地用・パワー系の製品も出ています。
- OD缶(アウトドア缶):アウトドアショップや一部のホームセンターで売られる、ねじ込み式の背の低い缶です。多くはイソブタンとプロパンの混合で、寒冷地用もあります。グラム単価は高めで、地方では入手しにくいため、都市部で買っておくのが確実です。
実用上の目安として、最低気温が0℃前後なら標準CB缶より寒冷地用の混合ガスの方がはるかに安定します。-5℃を大きく下回る場合は、缶を温かく保ち、寒冷地向けのバーナーを使わない限りガスは当てにできません。
ガス缶を安全に温かく保つ
目的は、使う直前まで缶を体温に近い温度に保つことです。缶を加熱することではありません。
- 次に使う缶を上着の内側に入れ、調理の20〜30分前から温めておきます。朝に使う缶は寝袋の中や体の近くのポーチに入れて眠ります。
- 地面から断熱します。バーナーと缶は雪や凍った土の上に直接置かず、ウレタンマットの切れ端や板、バーナーシートの上に置きます。
- 缶を2本で回します。1本で調理する間、もう1本をポケットで温めます。
- 炎やストーブで缶を温めたり、風防で缶ごと囲って熱をこもらせたりしないでください。過熱した缶は破裂するおそれがあります。日本で売られている缶には40℃以上の場所に置かないよう注意書きがあります。必ず手元の製品の表示に従ってください。
- カセットコンロのボンベ収納部を覆うような大きな鍋は使わないでください。輻射熱でボンベが過熱する事故の原因として知られています。
分離型バーナーの中には、缶を逆さにして液体のまま送り、予熱管で気化させる方式に対応したものがあり、寒さに強い使い方です。ただし対応設計のバーナーに限ります。非対応の機種で缶を逆さにしないでください。
冬向けのバーナー選び
万能の一台はありません。想定する最低気温と自分の経験に合うものを選びます。
- 一体型のガスシステム(バーナー、熱交換器付きクッカー、風防が一体)は燃費がよく風に強いのが特長です。レギュレーター付きのモデルは缶が冷えても火力を保ちやすく、飲み物やインスタント食品の湯沸かしに向きます。
- 分離型ガスバーナーは重心が低く安定し、鍋用の広いクッカーを載せやすく、機種によっては逆さ缶での使用もできます。
- ホワイトガソリンを使う液体燃料バーナーは厳冬期の定番です。ポンプで燃料ボトルを加圧するため、火力が気温に左右されにくいのが利点です。反面、重さ、費用、整備の手間があり、プレヒートでは一時的に大きな炎が上がるので、頼る前に屋外で練習しておきましょう。ホワイトガソリンはアウトドアショップや一部のホームセンターで扱っており、ガソリンスタンドでは買えません。
- 卓上カセットコンロは日本のオートキャンパーの多くが持っている道具です。寒冷地用CB缶と風の当たらない場所なら穏やかな冬の夜は使えますが、強風や厳しい冷え込みには弱いです。
- アルコールストーブは寒さで着火しにくく火力も落ちるため、夏向きと考えましょう。
風、安定、調理場所
冷たい空気以上に熱を奪うのは風です。弱い風でも沸騰までの時間が倍近くになることがあります。
- 風防は正しく使います。バーナーと鍋は風から守りつつ、缶を囲い込まないよう隙間を空けます。
- 車やタープの壁の風下を選び、少なくとも一面は外気に開放しておきます。
- 安定した台をつくります。雪はバーナーの熱で溶けて鍋が傾きます。合板、バーナーシート、平らな石で水平面をつくり、背の高い細い鍋より広く低い鍋を選ぶと転倒しにくくなります。
- 場内の火気ルールを確認します。日本のキャンプ場は直火禁止で焚き火台が必須のところが多く、乾燥や強風時には火気全面禁止になる場合もあります。
閉め切ったテント、前室を閉じたテント、閉め切った車内では絶対に調理しないでください。狭い空間での燃焼は一酸化炭素を発生させ、色もにおいもありません。頭痛、めまい、吐き気などの初期症状は、疲れや寒さと勘違いしやすいものです。冬になると、閉ざされた空間でのコンロ、ストーブ、炭による一酸化炭素中毒の事故が毎年のように報道されます。調理は屋外か側面が開いたタープの下で行い、寝る場所から離してください。詳しくは冬キャンプの安全ガイドと冬の車中泊の安全ガイドを参照してください。
コンビニでの冬の食材調達
日本のコンビニは、冬の食事計画を大きく楽にしてくれます。山間のキャンプ場は最寄りの店から遠いことがあるので、最後のコンビニやスーパーでまとめて買っておきましょう。以下の価格はあくまで目安で、チェーン、地域、年によって異なります。
- おでん:秋から冬にかけてレジ横で売られることが多く、1品あたりおおむね100〜200円前後です。季節限定やパック販売のみの店舗もあります。到着直前に買えば、最初の温かい食事になります。
- 鍋の材料:カット野菜、豆腐、薄切り肉や魚介、1人前の鍋つゆ。品ぞろえと価格はスーパーの方が有利なことが多いです。
- 冷凍うどんとカップ麺:かさばらず早く、鍋の締めにも最適です。
- レトルト食品(カレー、おかゆ、スープ):湯せんで温め、その湯を飲み物に再利用すれば排水が減ります。
- ホットの飲み物:加温ケースのボトル飲料は、車内で短時間のカイロ代わりにもなります。
- パックご飯:店の電子レンジで温めるか、キャンプで湯せんします。
おにぎりやサンドイッチは寒さで硬くなるので、早めに食べるか内ポケットで保管します。多くの商品はレジで温めてもらえます。コンビニのゴミ箱は店で買った商品用です。キャンプのゴミを捨てないでください。
一つの鍋で完結する鍋料理
鍋は、鍋一つ、バーナー一台で温かい汁と食事が同時にとれるため、冬キャンプにぴったりです。
- 広く浅い鍋を使います。2〜3人なら2〜3リットル程度が目安です。
- 水は思ったより少なめから。2人なら800ml〜1リットル程度に1人前の鍋つゆを1〜2個。野菜から水分が出ます。
- 火の通りにくい順に入れます。大根やにんじんなど硬い野菜、次に豆腐と肉や魚、最後に白菜、ねぎ、春菊などの葉物。
- 取り分ける合間もふたをします。寒い夜にふたを開けたまま煮込むとガスを大量に消費します。
- 締めで汁を使い切ります。冷凍うどんや、ご飯と溶き卵の雑炊を残りのスープに入れます。汁がほとんど残らないので、片付けが格段に楽になります。
下ごしらえはできるだけ自宅で。野菜を切り、肉は平らに袋詰めして冷凍しておけば、冬はクーラーボックスで十分保冷でき、現地ではまな板なしで鍋に入れて解凍できます。
水を凍らせない工夫
厳冬期は配管保護のため屋外の水道を止めるキャンプ場や、夜間に蛇口が凍るキャンプ場があります。水が使えるか運営者に確認し、滞在分を持参しましょう。
- ステンレスの保温ボトルに夜に熱湯を入れておけば、朝もまだ温かく、一日の最初の湯沸かしを省けます。
- 硬いボトルは逆さにして保管します。水は表面から凍るため、逆さにしておくと氷がふたやねじ山から離れ、朝でも開けられます。
- ボトルを抱いて寝ます。しっかり密閉した湯入りボトルを寝袋に入れれば、体が温まり水も凍りません。熱湯対応のボトルを使い、毎晩ふたの密閉を確認してください。
- ポリタンクは屋外に置かず、車内やテント内へ。雪国では、雪に埋めたボトルの方が夜の外気にさらしたものより凍りにくいことがあります。雪には断熱効果があるためです。
- 浄水器も凍ります。中空糸フィルターは凍結で傷むことがあるので、内ポケットや寝袋で保管します。
雪を溶かして水をつくることもできますが、燃料を大量に使い、焦げつきを防ぐため最初に少量の水が必要です。日本では計画ではなく非常手段と考えましょう。
片付け、食料保管、ゴミ
氷点下での片付け
-5℃では、食器にかけた水がすすぐ前に凍ります。寒さと戦うのではなく、やり方を変えます。
- まず拭いて、それから洗う。温かいうちにキッチンペーパーや古新聞で鍋や皿の油と食べ残しを拭き取れば、洗う量はわずかで済みます。
- 鍋の汁は締めで使い切り、食べ終えたときに鍋がほぼ空になるようにします。
- 食後に沸かした湯で、洗い桶を使って洗い、すぐに拭き上げます。濡れたスポンジやふきんは凍って固まるので、袋に入れるか車内に置きます。
- 油、汁、食べかすを炊事場の流しや排水口、地面に捨てないでください。多くのキャンプ場で明確に禁止されています。固形物は水切り袋でこし、ゴミと一緒に持ち帰ります。
共用の炊事場や静粛時間についての考え方はキャンプ場マナーのガイドも参考にしてください。
食料の保管とゴミのルール
- ゴミの扱いは施設ごとに違います。分別回収してくれる施設もあれば、全量持ち帰りの施設も多くあります。分別区分は一般に可燃、不燃、缶、びん、ペットボトルなどで、施設や自治体ごとに定められています。チェックイン時に確認しましょう。
- ガス缶やCB缶は中身を使い切ってから、捨てる地域の自治体のルールに従って処分します。穴あけを求める自治体も、穴をあけないよう求める自治体もあるので、思い込まずに確認してください。
- 夜間の食料は車内か密閉容器に。冬もカラス、タヌキ、キツネは多くのキャンプ場周辺で活動しています。北海道では野生のキツネに触れたり餌を与えたりしないでください。
- クマは多くの地域で厳冬期の活動は減りますが、初冬や早春には活動することがあります。施設の案内に従い、食料やゴミを外に置かないでください。
持ち物と手順のチェックリスト
- 想定最低気温に合うバーナー、寒冷地用ガスまたはホワイトガソリン、予備の缶。
- バーナーの下に敷くマットや板、缶を囲わない風防。
- ふた付きの広い鍋、お玉、小さなまな板、キッチンペーパー、生ゴミ用の水切り袋。
- ステンレス保温ボトル2本、逆さ保管できる硬いボトル、滞在分の水。
- 下ごしらえして平らに冷凍した鍋の具、鍋つゆ、冷凍うどんやパックご飯、予備のインスタント食品。
- ライターとマッチ(ライターは寒さで着火しにくくなる)、予備電池付きのヘッドランプ。
- 分別区分ごとのゴミ袋、食料用の密閉容器。
- 手順:次の缶を上着で温める、換気のよい屋外で調理する、水は寝袋へ、洗う前に拭く、必要な施設ではゴミを持ち帰る。
まとめ
冬の台所を安定させるポイントは、想定気温で気化する燃料を選ぶこと、缶と水を体温に近く保つこと、調理は必ず屋外で行うこと、洗い物が少なく済む献立にすることです。出発前に、キャンプ場の冬季営業、水道の有無、ゴミのルールを確認しましょう。候補探しは有料キャンプ場の予約ガイドが出発点になります。
燃料製品、施設のルール、自治体の処分ルールは変わることがあります。出発前にキャンプ場の運営者、製品の表示、地元自治体で最新情報を確認してください。
