北海道の冬の車中泊は、本州の車中泊を寒くしただけのものではありません。上川や十勝の盆地、道東の一部などでは、晴れた夜に内陸でマイナス15℃以下まで冷え込むことが珍しくなく、地方のガソリンスタンドは早く閉まり、町と町の距離は長く、開けた平野では地吹雪で数分のうちに視界がほぼゼロになることがあります。毎年多くの人が上手に楽しんでいますが、忘れ物や判断ミスを吸収できる余裕は小さい。この記事では、どこなら車中泊してよいか、厳寒で車に何が起きるか、エンジンを切ったまま暖かく眠る方法、そしていつ運転をやめるべきかを、計画の段階から整理します。
中止基準や出発前チェックなど冬の車中泊の基本は、先に日本の冬の車中泊安全ガイドを読んでください。この記事では北海道に特有の点を掘り下げます。
冬に車で夜を過ごしてよい場所
最適なのは、そのために作られた場所です。
- RVパーク。 日本RV協会の認定を受けた施設が多く、区画が決まっていて夜間もトイレが使え、有料で電源(AC100V)が使えるところも少なくありません。北海道でも冬季営業する施設はありますが、休業するところも多く、除雪・電源・水の状況は施設ごとに違います。事前に予約し、冬の営業を直接確認してください。
- 電源付きの冬季営業オートキャンプ場。 数は比較的少なく、スキー場や温泉地の近くに多い傾向があります。週末や、さっぽろ雪まつりなどのイベント期間は混み合います。
- 車での宿泊を明示的に認めている有料駐車場や施設。 車中泊プランのある温泉施設などです。事前に確認し、ルールに従いましょう。
道の駅は道路の休憩施設です。居眠り運転や危険な運転を避けるための休憩は認められていますが、キャンプ場でも宿泊施設でもなく、ルールは駅ごとに異なります。冬は夜間に除雪車が駐車場に入るため、長時間とめた車が作業の妨げになることもあります。利用前に道の駅の車中泊ルールは実際どうなっているのかを確認してください。雪に埋もれると空き地に見える堆雪場、バスの転回スペース、農道の入口には絶対にとめないでください。
アイドリング:一酸化炭素と地域のルール
冬の車中泊で最も多い致命的なミスは、暖を取るためにエンジンをかけたまま眠り、その間に車の周りに雪が積もることです。マフラーの出口が雪でふさがれたり、車の後ろや下に雪が溜まったりすると、排気ガスが車内に入り込みます。一酸化炭素は無臭です。大雪や吹きだまりのときは数十分で起こり得て、近くを除雪車が通れば一気に雪の壁が車に押し付けられることもあります。仕組みと症状は一酸化炭素中毒のガイドで詳しく解説しています。
計画した夜のルールは一つ、エンジンを切って寝ることです。出発前に窓の霜を取るなど起きている間にエンジンをかける場合も、まずマフラーと車の後方を完全に除雪し、注意を切らさないでください。車内の電池式CO警報器は保険として有効ですが、代わりにはなりません。
マナーとルールの問題もあります。日本ではいくつもの都道府県や市町村が、駐車中のエンジン停止を求める条例や指針を定めており、駐車場や道の駅にもアイドリング禁止の掲示が多くあります。内容や適用除外は地域によって違うため、とめる場所の掲示を読み、明示的な禁止がなくても夜間の長時間アイドリングは歓迎されないと考えてください。通行止めになったときに必要な燃料を消費してしまうという問題もあります。
厳寒での車:バッテリー、燃料、各種液類
バッテリー
鉛バッテリーは厳寒で始動に使える力が目に見えて落ち、一方で油が固くなった冷えたエンジンはより大きな力を必要とします。秋には何とか持っていたバッテリーが、最初のマイナス15℃の朝に上がることがあります。エンジン停止中のスマホ充電、室内灯、アクセサリーソケットはさらに消耗させます。出発前にレンタカー会社か整備工場でバッテリーを点検してもらいましょう。ブースターケーブルかリチウム式のジャンプスターターを積み、ジャンプスターターは車内の暖かい場所に置きます。リチウム電池は低温で出力が大きく落ちるためです。
燃料
燃料は常に半分以上を保ちます。北海道の地方ではスタンド同士が30km以上離れていることもあり、夕方早くに閉まる店や日曜・祝日に休む店もあります。満タンなら立ち往生したときに短時間エンジンを回す余裕があり、タンク内の結露も減ります。給油は暗くなってからではなく、午後のうちに済ませましょう。
本州から持ち込んだディーゼル車は、北海道に着いたら早めに給油してください。寒冷地のスタンドでは冬に低温向けの規格の軽油が販売されており、暖かい地域で入れた燃料は厳寒で流動性が落ちることがあります。北海道の営業所で借りたレンタカーは通常、すでに地元の燃料です。
液類、タイヤ、パーキングブレーキ
- ウォッシャー液は寒冷地用を使う。通常品はガラス面や配管で凍ることがあります。
- 北海道の冬のレンタカーは通常スタッドレスタイヤですが必ず確認し、地方路線なら4WDも検討する。
- 厳寒の夜、地元のドライバーの多くはワイヤー式のパーキングブレーキを引いたままにせず(凍結して戻らなくなることがあるため)、平らな場所でPレンジ(またはギア)に入れてとめます。電動パーキングブレーキの場合は特に、車両やレンタカー会社の説明に従ってください。
- ワイパーを立てておくとガラスへの凍り付きを防げますが、大雪でアームが曲がらないかも考えましょう。
窓の内側の結露と霜
眠っている人は呼吸から驚くほど多くの水分を出しています。マイナス15℃の車内では、その水分が最も冷たい面であるガラスで結露し、内側に霜の層として凍ります。朝には視界をすべてふさぐほど厚くなることがあり、車内が暖まると溶けて寝具を濡らします。
- すべての窓に断熱シェードか、形に合わせて切った銀マットを付ける。最大の冷たい面であるガラスからの熱損失を減らし、見る必要のあるガラスに霜が付くのも防ぎます。
- 風下側の窓を1cmほど開けて換気する。ドアバイザーがあれば雪が吹き込みにくくなります。完全に密閉した車は水分をすべて閉じ込めます。
- 濡れた手袋、ブーツ、ジャケットは密閉袋に入れるか荷室へ。車内で一晩乾かさない。
- 車内で調理や湯沸かしをしない。火災とCOの危険に加え、大量の水蒸気が出ます。
- 朝はマフラーを除雪してからエンジンをかけ、デフロスターとスクレーパーを使う。凍ったフロントガラスに熱湯をかけるのは厳禁です。急な温度差で割れることがあります。
エンジン停止でマイナス15℃に耐える寝具
エンジンを切ると、車内は数時間で外気温に近づきます。暖房の効いた部屋ではなく、風を避けた屋外で寝るつもりで寝具を組んでください。
- まず下からの断熱。 シートや倒した床は冷気を伝えます。クローズドセルのフォームマットに断熱入りのエアマットか自動膨張マットを重ね、雪上で寝られる程度の断熱を目指します。
- 快適温度が予想最低気温に近いか、それ以下の寝袋。 マイナス15℃なら本格的な冬用寝袋か、暖かい寝袋を二重にする構成です。「限界温度」は快適の目安ではありません。
- 寝る専用の乾いた衣類。 ベースレイヤー、帽子、厚手の靴下、必要なら寝袋の中で着るダウンや化繊のジャケット。
- 湯たんぽ。 寝る前にお湯を入れ、カバーに包んで足元か太ももの間に。
寝袋の表示、マットの重ね方、湯たんぽの使い方は氷点下でも暖かく眠る装備術で詳しく解説しています。車中泊ならではのポイントは単純で、電気製品がすべて止まっても安全でいられる寝具にすることです。
ポータブル電源と電気毛布
電気毛布は空気ではなく体を温めるので、効率よく暖かさを足せます。頼る前に計算しておきましょう。
- 使う設定での消費電力をラベルで確認する。小型の電気毛布は中程度の設定で数十W程度のものが多いです。
- 例:50Wの毛布を8時間使うと400Wh。ACインバーター経由では一般に1〜1.5割ほどのロスがあるので、450〜500Wh程度を見込み、ほかの充電分も足します。12VのDC毛布ならインバーターのロスがありません。
- リチウム電池は厳寒で使える容量が減り、多くのポータブル電源はおおむね0℃以下での充電が禁止されています。本体は車内に置き、冷たい床から離し、毛布で包んでも運転中は排熱口をふさがないこと。メーカーの使用温度範囲を確認してください。
- 効く範囲で最も低い設定にし、毛布を折り畳んだり丸めたりしない。長時間の接触による低温やけどにも注意し、熱さを感じにくい人には特に気を付けます。
AC電源のあるRVパークやオートキャンプ場なら、電気毛布を一晩中使えます。コンセントのアンペア上限は小さいことがあるので守り、何をつないでよいか運営者に確認してください。ヒーター類を制限しているサイトもあります。
除雪道具と積んでおくもの
以下はおまけではなく必須装備です。
- スノーブラシとアイススクレーパー。
- 丈夫なスコップ。除雪車が寄せた固い雪には、プラスチックのおもちゃのようなものより金属刃のものがはるかに有効です。
- 防水手袋(2組)、冬用ブーツ、ヘッドランプ。
- 脱出用具:牽引ロープ、地方道を走るならスタックヘルパー(脱出用マット)か砂や滑り止め材。
- 保温ボトルの水、凍って固まりにくい高カロリーの食料、ポケットで温めておくモバイルバッテリー。
- 停止表示器材と、車両に備え付けの非常用品。
ホワイトアウトと地吹雪:いつ止まるか
北海道には地吹雪という特有の危険があります。強風が積もった雪を巻き上げるため、雪がほとんど降っていなくても、時には晴れ間がのぞく空の下でも、開けた農地や海沿いの平野で視界が急激に失われます。数百メートル進むうちに、良好な視界がほぼゼロになることもあります。
判断は早めに下します。
- ルート上に暴風雪警報や大雪警報が出ていたら計画を変える。大丈夫だろうと出発しない。
- 走行中は、道路の路肩の上にある紅白の矢羽根(固定式視線誘導柱)が道の位置を示します。次の矢羽根が見えなければ、見えないまま走っている状態です。減速し、ヘッドライトとハザードランプをつけ、車間を大きく取ります。
- 走行車線上で止まらない。コンビニ、ガソリンスタンド、道の駅など広い駐車場に完全に入ってから待機する。
- 立ち往生したら車から離れない。北海道の過去の暴風雪による死亡事故には、車を離れて歩いた人と、雪に埋もれた車内で一酸化炭素中毒になった人の両方が含まれています。助けを呼び、マフラーの除雪を続け、エンジンは起きている間に短時間ずつ、風下側の窓を少し開けて回し、持っている防寒着をすべて着ます。
道路情報と緊急時の計画
出発前と移動中に次を確認します。
- 気象庁の警報と降雪の予報:www.jma.go.jp。
- 日本道路交通情報センター(JARTIC)の通行止めと路面情報。
- 北海道開発局の道路情報と「北の道ナビ」。国道、峠、冬期通行止めの情報があります。
- 高速道路はNEXCO東日本、目的地の積雪と営業状況はその施設に。
スマホだけでなく紙にも書いておきます。
- 火事・救急は119、警察は110。
- JAFロードサービスは携帯電話から #8139。レンタカーには通常、独自のロードサービス番号があるので書類を確認し、指示があればそちらを先に使います。
- 宿泊先の住所と電話番号、最寄りの町の名前。
ルートと到着予定を誰かに伝えておきましょう。通行止めになったら受け入れること。無理に走るより、有人の休憩施設や最寄りの町のホテルで一晩過ごす方がはるかに良い結果です。
まとめ
- 車での宿泊を歓迎するRVパークや冬季営業オートキャンプ場を使い、道の駅は休憩施設として使う。
- エンジンを切って寝る。エンジンをかける前には必ずマフラーを除雪。
- 燃料は半分以上、給油は午後までに。ジャンプスタート用具は温めて積む。
- 窓を断熱し、少し換気し、電気がなくても機能する寝具を組む。
- 地吹雪では早めに止まり、走行車線では止まらず、車から離れない。
RVパークや車中泊スポットはマップで探し、冬の営業を運営者に確認してください。出発前に、最新の気象警報と通行止め情報を公式の情報源で必ず確認しましょう。
